・そもそもNikon Fとはどんなカメラか
Nikon FはNikonが1959年に発売した一眼レフカメラです。
プロ向けのカメラとして発売され、1973年までにおよそ80万台が生産されたと言われています。
このカメラは60年以上の歴史を誇るニコンFマウントを最初に採用したカメラとして知られ
現在でも絶大な人気を誇りますが、なぜこのカメラは「名機」と言われるのでしょうか。
・Nikon F登場までの経緯を探る
時は1950年代。
戦後すぐ35mm判カメラの製造に着手したNikonは、
ドイツのバルナックライカに追いつけ追い越せと
レンジファインダーカメラの開発を行っていました。
民生用カメラとしてNikon Sを皮切りとした
Sシリーズを発売していきます。
そしてようやくバルナックに並ぶカメラが誕生した、
と思った1954年、ライカが衝撃的なカメラを発表しました。
それがLeica M3です。
これまでのバルナックライカとは一線を画すカメラであり、
つまりそれはNikonが再び突き放されたということでもありました。
Nikonも負けじと発表間近だったカメラを一旦取りやめ、
M3に対抗するべく各所をリニューアルしてNikon S2を発売します。
そして次にM3に真に対抗できる機種として、
1957年には「スペシャルでプロフェッショナルなカメラ」SPを発表しました。
SPはユニバーサルファインダーを搭載するなど
Leica M3を強く意識して設計されており
国産レンジファインダーカメラの頂点に立つカメラになりましたが、
同時にNikonはレンジファインダーの生産から
一眼レフカメラの生産に移っていくことになりました。
そして1959年、ついにNikon Fは発売されるのです。
・余談 Nikon Fの中身
Nikon Fの特徴の一つが、ボディの後ろ側についたシャッターボタンです。
後継機のF2を始めほとんどの一眼レフカメラは
ボディの前側についているシャッターボタンですが、
実はこれはNikon Fがレンジファインダーカメラの機構を一部流用している証なのです。
実際にNikonのレンジファインダーカメラである
SPと並べて見るとそっくりなことが分かります。
しばしばNikon Fは
「レンジファインダーカメラを半分に切って真ん中にミラーを追加した」
と言われますが、実際撮影していると
レンジファインダーと一眼レフの中間のような印象を受けます。
Nikon F(上)とNikon SP(下)のシャッターボタン付近の比較。
・Nikon Fが名機となった理由
そもそも一眼レフカメラを開発したのはNikonが最初ではありませんでした。
日本のカメラメーカーはNikonと同様ライカに対抗する手段として、
早くから一眼レフカメラを開発してきました。
当初の一眼レフカメラは
「ミラーによる像の消失時間(ブラックアウト)が長い」
「絞り込むとファインダー像が暗くなる」といった欠点がありましたが、
それらは日本のカメラメーカーによって解決されました。
ただしこれらを初めて解決したのもNikonではありません。
ではなぜNikon Fはカメラ史に残る名機となったのでしょうか。
その秘密は「プロユース」にありました。
もともとNikonのカメラは朝鮮戦争以来主に
報道向けによく使用されてきました。
当時Nikonが生産していたレンジファインダーカメラは、
ライカなどほかのカメラが動作しなくなってしまうような
寒冷地でもびくともせず、それが信頼へとつながっていきました。
頑丈なNikon製カメラ。堅牢なNikon製カメラ。
その遺伝子は、一眼レフであるFにも受け継がれました。
プロのハードユースに耐えうるボディは
世界中のカメラマンに愛されることになるのです。
もう一つの理由は、アクセサリー類の豊富さです。
自動巻き上げ・連写を可能にしたモータードライブF-36や
用途に合わせて選べる交換式のファインダーを初めとして、
どんな撮影もこなすことができる豊富なアクセサリーが
プロに支持されました。
・Nikon Fの種類
そんなNikon Fは15年間に渡っておよそ80万台が生産されました。
後継機であるNikon F2が発売されてもなお生産され続けていたことからも、
Fの人気ぶりがうかがえます。
Leica M3が約20万台であったことを考えるとこれは驚異的な台数です。
その歴史の中で、いくつかマイナーチェンジが重ねられています。
まず前期、中期、後期型の3種類に大別することができます。
前期型の特徴はシャッターボタンそばのNikonのロゴが
富士山マークと呼ばれるNippon Kogaku Tokyo銘であること。
またファインダー窓が四角になっています。
※なおファインダーに関しては交換が可能なので、
必ずしもボディと年代が一致しているとは限りません。
次に中期型はロゴがNikonに変更され、ファインダーが丸窓になりました。
後期型はセルフタイマーや巻き上げレバーに
Nikon F2と共通のゴム当てのついた部品が用いられています。
特に後期型のFは「New F」と呼ばれています。
また前期型の中でも特に最初期に生産されたものは
そのシリアルナンバーから俗に「640F」と呼ばれ、コレクションの対象となっています。
最初期型は前期型とわずかに違いがありますが、
年代を経て部品交換などもあることから、
必ずしもすべて同じ部品ではないことに注意です。
また最初期型の中にもわずかに違いがみられるものもあり、
このあたりのことは当時の方でないと分からないと思われます。
さらに細かいモデルとして、
658万台~660万台にはシリアルナンバーの左そばに
小さな赤い点が打たれているものがあり、
これは「赤点」と呼ばれています。
フォトミックTファインダーが装着できるように改造がされた個体の印で、
普通と少し違うFが欲しい方にオススメです。
またファインダーは交換式で主に
アイレベルファインダー、フォトミックファインダー、
ウエストレベルファインダー、スポーツファインダー
が知られています。
アイレベルファインダー(左)とフォトミックFTNファインダー(右)。
ボディカラーはおもにクローム(シルバー)とブラックペイントがあり、
ブラックペイントのほうが希少であるためやや相場も高めです。
アイレベルのクロームボディとブラックボディ
またごく少数のみ軍用・自衛隊用としてオリーブペイントが施されたものも存在します。
・特殊なアクセサリー、モータードライブ
そのほかのアクセサリーに、
モータードライブであるF-36やF-250があります。
どちらもおもに報道向けのアクセサリーで、
巻き上げレバーによって手動でシャッターをチャージする必要がなく、
スポーツ撮影などに不可欠な連写を可能としています。
・F フォトミックFTN(F-36・直結バッテリーパックつき)
F-36の裏側には連写速度と
対応するシャッタースピードが書いてあります。
シャッタースピードが遅いと露光中に
フィルムを巻き上げてしまう可能性があるため、
このような制限が設けられています。
また最高速の秒4コマはミラーアップの状態でしか
使用することができません。
ちなみにこのF-36はすべてのFに使えるわけではなく、
ボディ下部がシーソープレートという部品に換装されているもののみ
装着することができます。
また使用するためにはボディとF-36の調整を行う必要があり、
最終的には現物合わせでボディ1台に対して
F-36も1台を対応させる必要があります。
シーソープレートが装着されたNikon F。
右側にF-36と連動するための穴が2か所空いているのが特徴です。
・まとめ
ニコンの一眼レフの祖、F。
現在の世界のカメラ業界をリードするニコンにつながる、
歴史を変えた機種になります。
機械的な完成度は後継機種のF2には劣りますが、
特徴的なシャッターボタンの配置やアイレベルの三角屋根は
この機種でしか味わうことができません。
是非一度お手に取って、
当時の技術者の情熱を感じ取ってみてはいかがでしょうか。
また当店YouTubeチャンネルでは実機を用いて
種類の解説を中心にNikon Fを紹介しております。
こちらの動画も併せてご覧ください。
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