オールドレンズレビュー① NIKKOR-S Auto 5.8cm F1.4編

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・レンズ概要

発売年月:1959年10月

レンズ構成:6群7枚

最短撮影距離:0.6m

全長:59.5mm

重量:365g

 

このレンズの特徴といえるのは
58mmという「中途半端な」焦点距離でしょう。

このレンズが発売された1959年はNikonが
一眼レフ用のFマウントを採用した年になります。

一眼レフ用レンズは、当時主流だったレンジファインダー用
レンズに比べてミラーの分だけフランジバックを長くする必要があり、
その分レンズ設計の自由度が下がり、
明るいレンズや広角レンズの設計が難しかったのです。

しかしF1.4を一眼レフで実現したかったNikonは、
標準とされる50mm(正確には51.6mmですね)よりも
わずかに焦点距離を長くし58mmで設計することで
F1.4の明るさを確保しました。

ちなみにこの手法は当時Nikonだけでなく
ほかのメーカーも採用し、同様の対処をしていました。

オールドレンズに中途半端に見える焦点距離が存在するのは
当時の技術者の格闘の痕跡だったのです。

ちなみに設計技術の向上により1962年には
Fマウント用の50mm F1.4が完成し、
それに伴ってこのレンズは生産を終了しています。

生産本数は3年間で約3万本と、レアと呼ばれる部類ではありませんが
ほかのレンズに比べるとやや少なめになっています。

 

・外観

基本的に外観は後継の50mm F1.4とほとんど同じです。

F1.4の明るさのために、やや大きく重いレンズになっています。

ただし同年代のFに装着すれば取り回しやすいサイズに収まっています。

 

同じFマウントで同年代のNIKKOR-S Auto 5cm F2と並べてみました。

全長、太さともに一回り大きい程度でしょうか。

フィルター径は統一されて使用された52mmなので
先端部は同じ太さになっており、
その分やや中央部が膨らんでいるような印象を受けます。

 

フードをつけると印象が変わります。

対応するフードもAuto 50mm F1.4と共通です。

まだ50mmF1.4が登場していない時代につくられたと思われる
5.8cm F1.4専用のフードも存在していますが、
型番の振られていない大文字F刻印入りの50/1.4用フードや
HS-1とも大きさは共通です。

ちなみに50mmF1.4が発売されてしばらくはフードには
2つのレンズの名前が併記されています。

(ただしフードはcm表記ではなくmm表記です)

 

先ほどから比較に出している
NIKKOR-S Auto 50mm F1.4とも外観を比較してみます。

(※所有している5.8cm F1.4はフィルターリングが黒く塗られていますが、
通常は50mmと同じ銀色のリングをしています。
この比較ではおもに大きさを見ていただけると幸いです。)

 

大きさは瓜二つといっていいでしょう。

シルエットで出されれば見分けがつかなさそうです。

ただし前玉は焦点距離の分やや5.8cmのほうが大きいことが分かります。

ここが外から見た際の最大の違いになると思います。

 

ちなみにこのレンズと一部の50mm F1.4、55mmF1.2はニッコールレンズの特徴である
カニ爪の形が通常と異なっていることで知られています。

 

先ほどの5cm F2との比較を見直してみます。

よく見ると5.8cm F1,4のほうがカニ爪が尖っていることが分かるでしょうか。

このカニ爪の形状については、
実はなぜこのような違いが見られるか分からないのです。

通説とされるのは、尖ったカニ爪が最初に流通したが
様々なところに刺さってしまい危ないため丸みを帯びた形に
リニューアルされたというものです。

ただこの説は、最初期のレンズが
丸みを帯びた通常の形であることから否定できます。

ではなぜこのような形を採っているのか。

それは当時のニコン開発陣の方々のみぞ知るのでしょう。

 

・光学性能(テスト編)

ではここからは実際の撮影写真でこのレンズを見ていきましょう。

まずは室内・近距離でのテスト撮影です。

ボディはNikon Z6で、FTZ IIを経由して撮影しています。

撮影距離は最短の0.6m付近です。

最初に画角についてです。

58mmという焦点距離は50mmとどの程度違っているのでしょうか。


上が58mm、下が50mmです。

やはりやや望遠気味に写ります。

8mmという微妙な数値の差ですが、
実際に撮影した印象としてはかなり違いが見られます。

 

次に絞り値ごとの画質を見てみます。

上からF1.4、F2.8、F5.6と、2段ごとの描写を見ていきます。

F1.4開放では像のにじみが見られます。また周辺減光の影響をかなり受けています。

F2.8以降は回折のみ画質に影響を与え、それ以外の変化はほとんど見られません。

F2.8とF5.6では被写界深度が変化しただけと言えると思われます。

オールドレンズに共通して使われる言葉ですが、
このレンズも開放での特有の描写と絞った際の精緻な描写の
二面性を味わえるレンズといえると思います。

 

・光学性能(実写編)

次に実際に使用した作例を見ていきます。

ボディはテストと同じZ6になります。
ピクチャーコントロールはオートまたはモノクロ。


開放での1枚。拡大すると周辺部を中心としてにじみはありますが、
描写を生かした作品づくりが捗りそうです。


同じ構図でF2.8まで絞ってみました。かなり印象が変わります。


こちらは開放で。周辺減光がいいアクセントになっているのではないでしょうか。
光源がなく、また解像度が気にならない被写体を写すような場面では
開放でも違和感なく使用することができます。


モノクロモードでも使ってみました。


58mmという焦点距離は、50mmよりやや長く
被写体を切り取るような使い方に向いています。

撮影していると自然と体がそのような撮り方になっているので不思議です。


再びカラーに戻って開放で。

ボケはやや硬いですが、開放ではさすがの立体感といったところです。

・まとめ

今回はNIKKOR-S Auto 5.8cm F1.4を見ていきました。

Fマウント創成期のレンズとあってまさに
オールドレンズを代表するような素性のレンズでした。

また1本のレンズのバックグラウンドにある
様々なエピソードを追っていくのも楽しいと思います。

 

実際に使ってみた感想としては、
つい開放で撮ってしまうレンズだと感じました。

絞り込んだ描写は目を見張るものがありますが、
やはり開放での個性の際立つ描写を使いたい思いがあります。

自分に合った使い方でオールドレンズライフを
楽しんでみてはいかがでしょうか。

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